白い猫の来た道

日々つれづれ

無題

写真は撮らなかった。
目の前にいる人に集中したくて、その日、ひとりになるまでiPhoneに触らなかった。
心打つ美しい風景と、初めて繋いだ手のあたたかさと、胸に満ちる安心感が、柔らかな布で大切に包まれたように、心に残っている。
まるで夢のようだ。
1日1日遠ざかる記憶は、現実から夢のような感覚へと面差しを変えつつある。
落ちてくる雪を手のひらで掴もうとするように、それは儚い。
面影も、言葉も、画面越しに見ることはできても、遠い遠い存在だ。
あたたかな記憶は、やがてあたたかな思い出に変わるのだろう。
それでも、そばにはいられなくても、生きていてくれることが嬉しい。
思うままに生きてくれたらそれでいい。
あたたかな思い出が、消えずに心を温め続けてくれる。
教えてくれたことが、灯火となって道を照らしてくれる。
交わした約束を思う。
全てが夢のように変じていく中で、それが、違う場所で生きるあなたと私を繋ぐ糸なのだ。